山口地方裁判所 昭和26年(行)30号 判決 1960年9月19日
原告 矢次喜一
被告 山口税務署長
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告代理人は、「被告が昭和二十五年二月二十八日附を以てなした、原告の昭和二十四年度分所得税についてその所得金額を六十万円とした更正決定(但し後記審査決定により五十四万五千円と減額)はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
その請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は家具、建具類の製造及び販売を営む個人企業の商人であるが、昭和二十五年一月三十一日被告に対し原告の昭和二十四年度分所得税についてその所得金額(内訳事業所得以下同様)を二十万二千七百三十三円として確定申告をした。然しその後調査の結果右年度は欠損であることが判明したのでその旨被告に更正を請求したところ、被告は昭和二十五年二月二十八日右所得金額を六十万円と更正決定をし、翌三月三日その旨原告に通知した。
二、そこで原告は右決定を不服として昭和二十五年三月二十日広島国税局長に対し審査請求をしたところ、同国税局長は昭和二十七年一月右所得金額を五十四万五千円と変更する旨の審査決定をし、その頃その旨の通知が原告に対してなされた。
三、然し昭和二十四年度においては原告に所得がなく、却つて別紙第一、二表記載のごとく一万一千三百六十二円の欠損であり、従つて被告のなした本件更正決定は違法であるところ本件更正決定は前記審査決定中の所得金額五十四万五千円の限度においてなお効力を有するものであるから、本件更正決定の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。
次に被告の主張に対し
一、被告の主張事実中、原告が本件審査請求において掲げた所得金額が二十万二千七百三十三円であること、売上記載脱漏につき取引日付三月二十一日取引先徳佐高校取引金額七千八百円並に四月十四日ふるさと二千七百円の各売上分につき記載漏れがあることを認め、その余の事実を否認し、原告主張の欠損は別紙第一、二表中の欠損欄記載の通りであることを主張する。
二、次に原告の現金出納帳、当座勘定出納帳総勘定元帳については前記一、の記載漏れの外、若干正確を欠いているものであることは認めるが然し虚偽又は不正な記載事項は断じてなく、真実なものである。すなわち、
(1) 取引日付四月二十三日、金額三万円、取引先広島工業の分については、真実かかる取引がなく、取引高税売上帳の記載は誤記である。
(2) 四月三十日、一万七千八百八十円、豊栄建設の分については真実このような取引はない。
(3) 六月二十三日、四百三十円、日の組の分については雑収入科目に記帳されている。
(4) 六月二十四日、八百円、中国地方杭木の分については実質上値引をしたものである。
(5) 九月六日、一千九百円、森山の分については別途に記帳されている。
(6) 十一月四日一万円新谷の分については真実このような取引がなく、新谷より窓厚大硝子の売買斡旋を依頼されたため、原告の取引先である梅地硝子店に紹介し無口銭にて右売買を斡旋したものであつて、この点についての取引高税売上帳の記載は誤記である。
被告は同業者の申立指数、従業員数電力使用量等により原告の所得を推計決定しているが、右決定は納税義務者が全然帳簿を有しないか又は有していても全然信用することができない程度に不正又は誤謬の多い場合に許されるもので、些少の欠点を指摘して帳簿を全面的に否認し推計決定するは正当な課税決定権の行使でないい。
以上の次第により被告が本件更正処分をなすに当り、原告の所得金額を推計によつて算定することは許されず、而も右推計に際し原告の経営の内容、巧拙等の特殊事情或いは必要経費を全然無視してなしたのは違法である。
(証拠省略)
被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、答弁として、
一、原告の主張事実中、原告が家具、建具類の製造及び販売を営む個人商人であること、原告が被告に対し昭和二十五年一月三十一日原告の昭和二十四年度分所得税についてその所得金額を二十万二千七百三十三円として確定申告をしたこと、被告が昭和二十五年二月二十八日右所得金額を六十万円と更正決定し、翌三月三日その旨原告に通知したこと、原告が右更正決定を不服として同年三月二十日広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和二十七年一月中右所得金額を五十四万五千円と変更する旨の審査決定をし、その頃その旨を原告に通知したことはいずれも認め、その余の事実を否認し、被告のなした本件更正決定が適法であるゆえんを次のとおり主張した。
二、原告はその営業について一応の諸帳簿書類並にこれに基く貸借対照表、損益計算書を備え付けているか、右諸帳簿には、以下に述べるように、相当数の欠陥、記載漏れ乃至不正な記載があつて信用し難く、実際の営業状態を反映しないものと認められ、これによつては到底適正な所得を計算することができない。即ち、
(一) 原告は本件確定申告及び本件審査請求においてその所得金額を二十万二千七百三十三円と申告、又は要求しながら、本件訴状において一万一千三百六十二円の欠損を申立て、更にその後も右欠損の金額について原告の主張するところは終始変転として首尾一貫しないが、右は原告の諸帳簿が不正確なものであることを端的に示すものである。
(二) 原告の諸帳簿を相互に比較検討すると、記録自体相当数の齟齬、欠陥があり、特に現金出納帳につき、例えば取引月日を前後した記帳、残高記入欄の空白等の欠陥がある外記帳の内容につき現金科目と預金科目を混淆した記帳(仕訳の不完全)、計算上支出不能な支出の記帳或いは同一取引について二重記帳がなされる等、随所に虚偽の記帳が見受けられる。
(三) 被告が原告の主要な取引先を実地調査し、或いは原告の取引高税売上帳と比較検討した結果、原告備付の原簿(総勘定元帳)には別紙第三表記載の如く売上について記載漏れになつていることを確認した。
(四) 右記載漏れは被告が原告の主要な取引先について調査し又は原告の取引高税売上を検討して得た額であるが事実売上高が多額であることは原告及びその家族には原告の前記営業による収入を除いた外に収入がないのに拘らず、その帳簿を経由せずに六十三万四千五百九十円にのぼる多額の金額が預金されている事実に徴し明白であり、而して右事実は原告の帳簿には原告の実際の取引事実の一部のみが記帳されているに過ぎず、尚多くの記載漏れのあることを示すものである。
三、(一) 以上の次第により原告の本件確定申告の正否を判定する資料を原告備付の諸帳簿書類に求めることが不可能であつたので、次に述べる方法によつて原告の所得金額を推計した結果、右所得金額は五十四万五千円となる。
(二) よつて次に右所得金額五十四万五千円についての算出基礎を示すと以下のとおりである。即ち、
(1) 原告の金銭出納簿に記載の売上収入金額百六十八万七千六百十一円。
(内訳) 右帳簿現金出納の部のうち売上科目に対応する金額百四十四万三千六百十円二十銭。
右帳簿預金の部のうち売上科目に対応する金額二十四万四千円八十銭。
(2) 原告の総勘定元帳に記帳されている期首売掛金と期末売掛金との増差額(売掛金増)五万七千四百七十二円五十銭。
(3) 前掲二、(三)の売上脱漏金額七十四万八千八十三円。
(三) 以上(1)(2)(3)の各金額を加算して原告の営業による収入金額百八十一万九千百六十六円五十銭を算出し、これに所得率三十%(山口税務署管内における同業の建具、家具類の製造及び販売業を営む者の右営業による収入金額に対する所得の割合)を乗じて算出した結果、前記五十四万五千円と推計されたものであつて、右推計に何ら違法な点はなく従つて本件更正決定を取り消すべき理由を見出し難い。
(証拠省略)
理由
一、原告が家具、建具類の製造及び販売を営む個人企業の商人であること、原告が被告に対し昭和二十五年一月三十一日原告の昭和二十四年度分所得税についてその所得金額を二十万二千七百三十三円として確定申告をしたところ、被告はこれにつき昭和二十五年二月二十八日右所得金額を六十万円と更正決定し、翌三月三日その旨を原告に通知したこと、原告がこれを不服として昭和二十五年三月二十日広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、広島国税局長は昭和二十七年一月中右所得金額を五十四万五千円と審査決定をし、その頃その旨を原告に通知したことはいずれも当事者間に争がない。
而して税務署長のした更正決定と国税局長のした審査決定とは各別個独立の行政処分であるが、審査決定中の所得金額が更正決定中のそれよりも寡額である場合には、右審査決定は更正決定中の所得金額との差額部分を取り消す効力を有するものであるところ、このような場合において納税義務者が更正決定取消の訴を提起中、国税局が後日、原更正決定を一部取消したときはその取消の範囲内で原更正決定は変更されたものと解するを相当とする。
二、よつて以下被告のなした本件更正決定中取り消されていない部分即ち所得金額五十四万五千円の適否について判断する。
(一) 被告は、原告の本件係争年度におけるその所得を明らかにする帳簿書類が信用し難かつたのでその所得を推計したと主張するに、原告はかかる帳簿類を備えていた以上推計の方法によることは許されないと抗争するので、まず原告備付の帳簿類が信頼し得るかどうかについて審按する。
原告が本件確定申告及び審査請求においてその所得金額をそれぞれ二十万二千七百三十三円と申告又は要求したことは当事者間に争がなく、次いで本件訴訟において原告が主張するところは欠損一万一千三百六十二円であつて、右金額は原告が本件訴訟で別紙第一、二表記載の如く本件係争年度の貸借対照表及び損益計算書にそれぞれ掲げられた欠損額を主張するが、然しまた右貸借対照表及び損益計算書の各勘定科目について原告主張の明細書から算出される金額と一致しないところがあるのみならず、原告が被告主張の売上記載脱漏のうち一部分を始め自白しながら後に至つて右自白の一部を取り消して否認する等、原告の主張に首尾一貫しないところがあることは本件訴訟の経過に徴し明白であるところ、次に成立に争のない甲第一号証(乙第二号証の一、二はその一部)、乙第一号証の二、三、同第三号証の二、同第四号証の二、同第六、七号証、同第十一号証の一乃至六、同第十三乃至第十六号証、同第二十二、二十三号証、同第二十五、二十六号証、その体裁に照らし真正に成立したものと認め得る同第五号証、証人横尾勇次の証言並に原告本人の供述(但し後記認定に反する部分を除く)を綜合すると、原告は本件係争年度におけるその営業に関し貸借対照表、損益計算書並びにこれらの基礎的帳簿として「金銭出納簿」(現金出納帳及び当座勘定出納帳)、「原簿」(総勘定元帳)等の帳簿類を、なお原告がその製品の取引金額につき納付する取引高税の基礎的帳簿として「取引高税売上帳」を、それぞれ備え付けていたが、右取引高税売上帳を除く帳簿類の記帳は主に外部から計理士訴外横尾勇次に委嘱していて、納品書、見積書、請求書、入金伝票、出金伝票、振替伝票等原告方事務員又は原告の家族が随時右計理士の指導を受けて作成したこれら原始資料や或いは原告の口頭による申出によつて、右計理士が二週乃至三週間に一回程度の割合で原告方に出向きその分をまとめて前記帳簿に移記していたに過ぎないものであり、従つてその記載は真実且つ正確を期する簿記上のシステムが不完全であつて、覚書程度の域を出ないものであつたこと。原告備付の前記帳簿をそれぞれ比較検討すると、その記録自体相当数の齟齬、欠陥があること、(例えば、現金出納帳、総勘定元帳上に若干の取引日付を前後した記載や締切後の補充的記帳或いは締切の際の収支合計金額欄又は残高欄の空白等の形式的欠陥が散見され、又収支について現金出納帳、当座勘定出納帳と総勘定元帳との間で若干数科目内容、取引日付、或いは取引金額の記載に齟齬があり、特に売上金額について右各帳簿と取引高税売上帳との間で記載の金額が一致しない。)次に原告の取引銀行である山口銀行金古曽支店備付の帳簿類と比較対照すると、当座預金につき原告の帳簿類と一致しない記載が若干あること。のみならず原告及びその家族は原告の前記諸帳簿を経由しないおおむね被告主張の如き金額の預金(普通預金、定期預金及び無尽掛金)を山口銀行金古曽支店及び山口相互銀行山口支店に対し有しており、又原告の総勘定元帳には売上金につき後記(二)(4)掲記の如き記載漏れがあること。以上記載漏れは原告主張の貸借対照表、損益計算書掲記の金額に当然影響を及ぼすものであり、畢竟原告の帳簿類は原告の実際の営業状態を真実且つ正確に反映していないものであることをそれぞれ認めることができ、原告本人の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
右認定の如く、仮令原告がその営業に関し一応の諸帳簿書類を備え付けていても、それが右営業の実際の状態をそのまま真実且つ正確に反映していないものと認められる以上、たとえその金額に些少の相違の点があつてもその誤謬が取引の各部分につき存在し被告が課税決定の資料にし得られないものと認められるときは原告の所得金額を推計によつて算出することは相当であり何等違法な行為でなく、而してかかる間接的認定方法は現行所得税法第四十五条第三項のような規定が存しなかつた本件係争年度当時においても同様である。
(二) そこで次に、被告主張の如き推計方法による所得金額の認定が合理的なものであるかどうかについて審按する。
証人岡崎吉郎の証言により真正に成立したことが認められる乙第八号証の二、証人末永倖一の証言により真正に成立したものと認め得る同第十号証、その体裁及び趣旨により真正なるものと認める同第九号証、証人岡崎吉郎及び同末永倖一の各証言によれば、山口税務署管内就中山口市内において原告と同業の家具、建具類の製造及び販売を営む者の本件係争年度における所得率(右営業による総収入金額に対する所得の割合)は三割をやや上回る程度のものであつたことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
そうすると、原告について、原告が山口市内における他の同業者に比してその営業成積乃至経営能力において著しく劣つたものであることを認むべき特別の事情があれば格別、かかる特別の事情を認むべき何らの証拠のない本件にあつては、原告がその営業とする本件係争年度における建具、家具類の製造及び販売により生じた総収入金額(収入すべき金額)が確定できれば、右収入金額に対し前記所得率三十%を乗じてその所得を推計することは決して不当ではないというべきである。
よつて以下右の計算関係について検討する。
(1) 原告備付の帳簿に記載の売上による収入金額。
前顕甲第一号証、乙第一号証の二、三によれば、原告備付の現金出納帳に記帳されている本件係争年度における建具、家具類の売上又は売掛入金により収入した現金は百四十四万三千六百十円二十銭(但し現金出納帳売上科目中「二月二十三日原田、一千三十円」の分と総勘定元帳売上科目中「二月二十三日、原田、四百三十円」の分とは取引金額に齟齬があつて、総勘定元帳の記載は寡額であるが、右両者は同一取引のものと認められるから、右取引金額は総勘定元帳の記載による)であり、次に原告の当座勘定出納帳に記載されている本件係争年度における前記製品類の売上により生じた当座預金は二十四万四千円八十銭であることが認められ、従つて原告備付の帳簿に記載の本件係争年度における前記製品類の売上又は売掛入金により収入した金額は右各金額を加算した百六十八万七千六百十一円であることが計算上明らかである。
(2) 原告備付の帳簿に記載の雑収入。
前顕甲第一号証、乙第一号証の二によると、原告備付の総勘定元帳中雑収入科目貸方並に現金出納帳借方にそれぞれ製材代として「取引月日六月二十三日、取引金額四百三十円」と記載されていることが認められるからして、右金額四百三十円は原告が本件係争年度においてその営業により収入した現金であると認むべく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(3) 原告備付の帳簿に記載の売掛金。
前顕甲第一号証によると、原告の総勘定元帳に記載されている本件係争年度における期首の売掛金額は五万五千五百五十円であるところ、期末売掛金額は十一万三千二十二円五十銭であることが認められ、従つて原告の帳簿に記載の本件係争年度において確定せる前記製品類の売掛による収入すべき金額は右期末売掛金額から右期首売掛金額を差し引いた残額五万七千四百七十二円五十銭であることが計算上明らかである。
(4) 売上脱漏金額
(イ) 取引月日、三月二十一日、取引先山口県立徳佐高校、取引金額七千八百円。
(ロ) 四月十四日、ふるさと、二千七百円。
右各取引(売上)が記載漏れであることは当事者間に争がない。
次に前顕甲第一号証、乙第一号証の二、三、同第三号証の二によると、
(ハ) 取引月日四月二十三日、取引先広島工業、取引内容建具、取引金額三万円。
(ニ) 十一月四日、新谷、建具、二万七千七百十円。
(ホ) 不明 財務局、修繕、二千五百七十三円。
以上各取引(売上)が原告の取引高税売上帳に記帳されていながら、総勘定元帳及び現金出納帳には右(二)新谷の分について取引金額を一万七千七百十円として記載されているだけであつて、その余の取引については何らの記載がなく、当座勘定出納帳上も右各取引について記載が全然認められないからして、取引高税売上帳記載の前記各取引(但し前記(二)新谷の分は取引高税売上帳記載の二万七千七百十円から総勘定元帳記載の一万七千七百十円を差し引いた残額一万円)は総勘定元帳(及び現金出納帳又は当座勘定出納帳)に記載漏れであると認むべきである。原告は取引高税売上帳の前記各記載はいずれも誤記であると抗争するが、前記乙第三号証の二、原告本人の供述に弁論の全趣旨によると、原告は前記取引高税売上帳記載の各取引について所定税額の取引高税を印紙又は証紙若しくは現金をもつて異議なく納付していて、これにつき所轄機関に更正の請求、不服の申立或いは還付の請求をしていないことが認められるからして取引高税売上帳記載の前記各取引が誤記であるとは認め難い。他に以上認定を覆えすに足る証拠はない。
更に、前顕甲第一号証、乙第一号証の二、三、同第四号証の二、同第六号証、その体裁に照らし真正に成立したものと認められる同第五号証によると、
(ヘ) 取引月日、四月三十日、取引先豊栄建設株式会社、取引内容建具、取引金額一万七千八百八十円。
(ト) 六月二十四日、中国地方杭木株式会社、障子、八百円。
(チ) 九月六日、森山、丸卓子、整理箱、千九百円。
以上各取引による収入金が原告の総勘定元帳(及び現金出納帳又は当座勘定出納帳)に記載漏れであるこことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
更に右の外に被告は「取引月日六月二十三日、取引先日の組、取引内容製材代、取引金額四百三十円」の記載漏れを主張するが、前顕甲第一号証、乙第三号証の二によれば、右取引は原告の総勘定元帳中雑収入科目に記載されていることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
よつて原告備付の帳簿に記載漏れの収入金額は以上(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)の各取引金額を合計した七万三千六百五十三円であることが計算上明らかである。
以上(1)(2)(3)(4)の各金額を加算して原告の本件係争年度におけるその営業により生じた総収入金額(収入すべき金額)を確定するのが相当であり、而してこれらを加算すると百八十一万九千百六十六円五十銭となり、従つてこれに前記所得率三十%を乗じて原告の所得金額を算出すると五十四万五千七百四十九円九十五銭となることが計算上明らかである。
三、然らば以上推計を覆えすに足る有力なる反対証拠のない本件にあつては、その余の判断をなすまでもなく、前記認定の所得額を下廻る五十四万五千円とする本件更正決定を違法となすことはできず、よつてこれが取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 永見真人 松本保三 田辺康次)
(別表省略)